【87】スコットランドのコミュニティ政策に注目する

周知の通りスコットランドは、一九九九年以来自治政府をもち、議会をもっているが、その議会選挙がこの五月に行われた。スコットランド民族党(SNP)が今回もまた勝利し、公約通り二回目の独立の住民投票を行うことを宣言したことは、日本でも報道された。二〇一四年に行われた一回目の住民投票では独立賛成派が負けたが、その後イギリスのEU離脱を受け、もともと親EUのスコットランドでは、二回目の住民投票をという声が上がっていた。ちなみにスコットランド民族党は、北欧型の社会民主主義を目指す政党、ととりあえず言える。

 

さて、住民投票のゆくえは不透明であるが、そのスコットランドが、今や再生可能エネルギー先進地になっていることはあまり知られていない。先日公表された二〇二〇年のスコットランドの電力消費における再生可能エネルギー率はなんと九七・四%。二〇〇五年にはわずか一五%だったから急激な伸びだ。

 

そして、スコットランドの再生可能エネルギー政策の大きな特徴は、「コミュニティによる」再生可能エネルギーへの強力な後押しである。

 

この「コミュニティ押し」には、スコットランドの歴史が大きくからんでいる。

 

自治政府ができてからスコットランドが取り組んだ最重要政策の一つが「コミュニティ政策」だった。というのも、スコットランドはいまだにひどいばかりの大土地所有で、農村部の私有地の七〇%がわずか一〇〇〇人余りの所有者によって所有されている。一八世紀以降の「ハイランド・クリアランス」と呼ばれる住民(小作人)追い出しの歴史がそこには横たわっている。

 

そのゆがんだ土地所有がスコットランドの地域発展を妨げているとして、自治政府は「土地改革」に乗り出す。通常「土地改革」というと、土地を個人に解放するというものだが(戦後日本の農地解放のように)、ここでは、「コミュニティに戻す」という政策がとられた。二〇〇三年に制定された画期的な「土地改革(スコットランド)法」では、コミュニティが土地を購入する権利をもつ、正確には「一定の要件を満たして登録されたコミュニティ組織なら、土地が売られるときに優先的に購入できる」、とされた。

 

ギア島という、人口わずか一〇〇人余りの小さな島では、この法律ができる前だが、政府の後押しのもとで、島の人びとが二〇〇二年に島全体を不在地主から購入。その上で、島内でのさまざまな事業を立ち上げた。その核になるのが風力発電で、現在四基の風車を持ち、その収入を他の事業への投資に使っている。

 

その後スコットランド中で多くのコミュニティ組織が立ち上がり、再生可能エネルギーを地域再生の鍵として利用するようになった。そして、スコットランド政府は、ギア島が範を示したようなコミュニティによる土地奪還や風力発電などのコミュニティ事業を、補助金や融資、コンサルティングなどで政策的に後押ししている。

 

独立と再生可能エネルギーとコミュニティ再生とが結びついているのである。

 

(さっぽろ自由学校「遊」 ゆうひろば 2021年7月号)