【84】自分で調べる技術

岩波新書から出したばかりの『実践 自分で調べる技術』という本は、二〇〇四年に出した『自分で調べる技術』(岩波アクティブ新書)の全面改訂本だ。『自分で調べる技術』は、ずいぶん長い間読まれた本で、ぼくが出した本の中ではいちばん売れた本だ(他の本があまり売れなかっただけだけれど)。とはいえ、書かれている情報が古くなってしまい、改訂の必要に迫られていた。

 

今回、上田昌文(ふりがな/あきふみ)さんとの共著にした。上田さんは、ぼくの大学時代からの友人で、当時生物学を専攻していた。一緒に「自主講座」にかかわり、反原発運動にかかわり、という「同志」でもあった。その後上田さんは「市民科学研究室」(https://www.shiminkagaku.org/)を主宰し、市民の立場から科学技術を考えるというユニークかつとても大事な活動を行っている。「素人の知恵と力を結集して「市民にとってよりよい科学技術とは」を考え、提言」(市民科学研究室ホームページより)することが目的だ。

 

上田さんに書いてもらったのは、科学技術にかかわる調査、とくにリスクにかかわる調査方法。環境汚染や有害物質などのリスクを市民自ら調査するためには何をどうすればよいのか、どういうことに気をつけなければならないのか、上田さんに、経験を踏まえて、わかりやすく書いてもらった。とはいえ、やはりいくらか「専門的」にならざるをえないので、この本ではその基礎の基礎を書いてもらった。それでも、私たちがリスクを考えるときの本質的な指摘、たとえば、科学技術にかかわる調査でもフィールドワークが大事だとか、疫学的視点が大事だとかいった重要な指摘ががちらばめられている。

 

重要な指摘といえば、今回この本をもう一度一から書き直す中で、自分の中でもいろいろな発見があった。とくに「分析」するって何だろう、ということがあらためて自分でもわかってきて、それを人にうまく伝えられるようになったように思う。

 

聞き取り調査にせよ測定にせよ、いろいろと情報やデータを集めた上で、それを「分析」するのだけれど、その「分析」って何だろうということだ。平たい言葉を使えば「調べて何かがわかる」とはどういうことか、ということだ。ぼくが理解したのは、分析するということは、集めたデータを適切に圧縮して、ぱっと見てわかる形にし、それを眺めながら考え、そのことによってなにがしかのことがわかってくるということだ。「ぱっと見てわかる形にする」というのは、ときに表やグラフにすることだったり、カードを並べて関係図を作ってみることだったり、統計学的な検討をほどこすことだったりする。

 

そんなことも含めて、この本を使って、調べ、分析し、提言する人がもっと増えてくるとうれしい。

 

(さっぽろ自由学校「遊」 ゆうひろば 2020年10月号)