【76】スコットランドのコミュニティ再生可能エネルギー

 英国スコットランドの北部に、ディングウォールという小さな町がある。リチャード・ロケットさんの二〇〇ヘクタールにわたる農場は、その町はずれの丘に広がっている。そこに一本の風車が立っている。

 リチャードさんが風車を建てたのは二〇一四年。スコットランド最初のコミュニティ再生可能エネルギーと言われている。個人が建てる風力発電はそれまでにもあったが、コミュニティで出資しあって建てられたものとしてはスコットランドで初めてだった。

 大学で環境科学を学び、現在農場経営を行いながら、環境コンサルタントとしても仕事をしているリチャードさんが自分の農場に風車を建てようと考えたのはもうだいぶ前だった。しかし、コミュニティ再生可能エネルギーのコンサルティング団体「シェアエナジー」と出会い、そこで協同組合形式で資金集めをするアイデアを知ってからはとんとん拍子に事業が進んだ。

 出資者(組合員)を募るため、地域で説明会を開き、新聞広告を打ち、個人宅へのポスティングも行った。その結果、出資は順調に集まった。出資者の四分の三は四〇キロ圏内の住民たちだった。「出資者のほとんどは、投資目的と同時に、環境への関心などが動機になっていると思います」。

 この協同組合のもうひとつの特徴は、利益の一部をコミュニティ・ファンドとして地域に還元するしくみをもっているということだ。組合総会で決めたテーマにしたがって助成対象を募集するが、これまで、フットパスを整備する団体、地域森林プロジェクト、子供の運動場などに助成している。地域で集めたお金で事業を行い、その利益を地域に還元する形だ。

 スコットランド政府は、こうしたコミュニティ再生可能エネルギーを積極的に後押しする政策をとっている。資金援助政策をスキームとして持っていて、初期資金の無償援助もあれば、事業への無担保ローンやつなぎ融資のしくみももっている。多くのコミュニティ再生可能エネルギーがこれを利用している。

 スコットランド政府のこうした姿勢は、単にエネルギー政策というより、むしろコミュニティ再生に力点がある。スコットランド政府は、一九九〇年代後半以降、政府の土地や大土地所有で放っておかれている土地をコミュニティへ戻すという施策を始めており、そうしたコミュニティ再生政策の一環として、コミュニティ再生可能エネルギー促進もある。

 しかし一方、英国政府の側は、これまで再生可能エネルギーを後押ししてきたFIT(固定価格買取制度)の価格を大幅に下げており、かつ、二〇一九年三月でFITの新規受付を終了させる予定だ。このあたりも英国政府とスコットランド政府の方向性のズレは大きい。せっかく花開き始めたスコットランドのコミュニティ再生可能エネルギーは、どうなるのだろうか。

 ところで、リチャードさんのこのコミュニティ風力発電は、地域に別の効果ももたらした。

 コミュニティ風力の主要メンバーの一人が、今度は、コミュニティ発のウィスキー製造所を始めたのだ。風力発電のときの協同組合形式に似た形で地域内外から資金を集め、しかも組織をNPOとして立ち上げた。製造に使うエネルギーはもちろん再生可能エネルギー。九〇年間絶えていたディングウォールでのウィスキー製造再開でもあった。